天国の親への手紙

お父さんが旅立たれた年齢を三つも重ねてしまいました。
私は毎日ホームで楽しく、さわやかな日を過ごさせて頂いています。

お父さんは生まれも育ったのも、昔の東区玉造町です。そのころの町は、あちらこちらに歌舞音曲のお稽古所が有りまして、きれいなお師匠さんがおられました。町の若い人や年輩の方が毎日通ってこられます。お稽古などはそっちのけで賑わっていました。

お父さんは技術者のお仕事なのに、三味線や小唄の素踊りなどがお上手で、お師匠様から素人離れがしたと良くほめて頂いて居られたのもよくおぼえています。終戦になりまして、又芸の道に一生懸命になられました。

今のテレビの人気番組の素人名人会が始まったときに、名司会者であった西條凡児さんの司会で出演させていただいたことがありました。なつかしい思い出です。
妹が山村流の舞の会に出るときなどは、自分が出るみたいに喜んでいました。たくさんの頂いた花輪の前でご機嫌でした。

着物のよく似合う粋な人でしたが、仕立てが気に入らないと私に其の部分を縫ひかへさせて、夜も寝ないで直さされた事は忘れませんが出来上がったのが気にいればとても喜んで嬉しそうな顔をしてくれました、粋で素晴らしいお父様。子供達も孫もひ孫もよい子ばかりです。お父さんの顔は見なくても親たちのお話でよいおじいちゃんやと言っています。

八月の盆には、毎年全員そろって京都のお墓へ逢ひに行きます。行けないのは私だけです。でも私は夢の中で逢っています。

お父さん、私を早く迎へに来ないで下さいね。私はいまとても幸せですから、したい事もいっぱいありますから、しばらくホームで楽しく暮らしていきますからお願いしますよ。
どうしてもその日が来ましたらお母さんと一緒に迎へに来て下さいね。
それまで雲の上から見ていて下さいね。